妄想

なんでスーツってみんな着るんだろうな

「なんでスーツって廃れないんだろうな。」
とスーツ姿でビールを飲みながら話すのは、同期のヤマモトだ。

「たしかに、あんまり考えたことなかったな。」
ウチの会社は服装が自由なのに、半分くらいの人はスーツで仕事をしている。
顧客に会う日ならまだしも、内勤しかしていない日でもスーツを着ている人も多い。

「服装を考えなくてもいいってのが、ラクなんじゃないか?」
スーツのメリットを挙げて問い返してみる。

「いやいや、ネクタイとかシャツの組み合わせ、結構迷わんか?」

まあ確かに、迷うこともあるな。でもある程度パターン作っておけばいい気が・・・。

「同じパターンを繰り返すばっかだと飽きるしさ。」

心の中を読んだかのように付け加え、ビールを一口飲んで考え込むような顔をした。
「ウチの会社って、服装自由なのに結局スーツの人多いじゃん?スーツって、結構すごいのかな。」

「どういうこと?」と俺は問い返す。

「服装を考える手間が省けるってだけじゃ、こんなに浸透しないじゃん。これにはなにか、もっと根本的な理由があると思わん?」
赤ら顔で真面目な話をするもんだから、ちょっとおもしろい。

「例えば?」
どんな考えが出てくるのか気になって、俺もビールを一口飲んで聞いてみる。

「スーツって、着てるだけでちゃんとした人って思われるパワーを持ってるじゃん?権威とか、信用とかを象徴してるんじゃないかな。」

ほほう、なるほどたしかに。スーツを着ているだけでちゃんとした人感がでるのは否めない。

「たしかに、スーツを着てない営業マンから説明受けてもなんか説得力に欠けるよな。」
納得しつつ、ビールを一口飲む。

「そういえば、ミヤジさんってほとんど私服だけど、たまーにスーツ着てるとめっちゃ仕事できそうに見えね?」
ヤマモトが笑いながら言う。

「わかる、スーツ着てるだけでマジで別人だよ。」
スーツの力は恐るべしかもしれない。ただ着てるだけで印象がこんなに変わるなんて。

ヤマモトがグラスをおいて考え込む。
「スーツが信頼とか権威とかを感じさせるようになったのって、いつからなんだろうな。」

それは考えたこともないな。俺が物心ついた頃には、すでに親父はスーツを着ていたし。
「いつからって言われてもな…。そもそもスーツってどこから来たんだ?ヨーロッパ?」

「ヨーロッパのイメージはあるね。イギリスとかイタリアとか。そのへんの貴族が着てたから、権威とか信頼の証になってんのかな。」
ヤマモトは適当に言っているが、なんか合っているような気もする。イギリスとか紳士の国とか言われてるし、スーツを着たイケオジのイメージがある。

「じゃあ、ヨーロッパの貴族が原点だとして、なんでこんなに現代の日本で普及してるんだろう?」
俺はさらに生まれた疑問を口にしてみる。
ヤマモトとの飲みの会話で、こんなに頭を使うなんて。

「日本人特有の、右にならえ的な精神じゃね?社外との商談といえばスーツ!みたいな。着るだけでちゃんとして見えるし、規律を守ってる感も生まれるからピッタリ何だな。」
ヤマモトは皮肉めいた言い方をするが、あながち間違ってもなさそうでちょっと笑える。

「スーツを着るっていう文化で、規律を守ってる感を出していたから、それが信用につながってるのかもな。こいつはルールを守る誠実な男ですよって、スーツが形として代弁してるんだ。」
ヤマモトはそう言いながらビールを飲み干し、グラスを机に置いて続ける。

「まあ、見た目だけの信頼なんてたかが知れてるんだろうけど、スーツ着るだけで信頼感得られるなら便利だよ。」

「なるほど、まあ俺はスーツ着るのめんどいから私服派だけど。」
そう言うと、ヤマモトも「俺も同じく!」といって二人して笑いあった。

結局のところ、スーツは相手から「信頼」を得るための手段の一つに過ぎないのだろう。でも俺はラクな格好で仕事をしたいので、そこは選択の自由ということにしておこう。

-妄想